さすがに池上彰さんらしく、内容が分かりやすい。
10冊のラインナップは
「アンネの日記」
「聖書」
「コーラン」
「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」(タイトルが長いので、以下では「プロ倫」と書く)
「資本論」
「道しるべ」
「沈黙の春」
「種の起源」
「雇用、利子及び貨幣の一般理論」
「資本主義と自由」
なのだが、興味深かったのは「プロ倫」と「道しるべ」。
「プロ倫」では、プロテスタントの、来世で天国に行けるかが保証されていない、という教義により、自身で善行を積んでこれなら天国に行けるという確証を得るため労働に没頭したことが、資本主義の発展に大きく貢献したという(圧縮して書いてるのでイミフかもしれないが、その辺は原著をあたって欲しい)説を立てたとのことで、信仰が経済発展の原動力となったという点で興味深い。
では日本ではなぜ「エコノミックアニマル」と呼ばれるほどに資本主義にどっぷり浸かっているのかということについては、はっきりとした答えは書かれていない。
もうひとつの「道しるべ」については、イスラム原理主義過激派のバイブル(いやコーランか。とかいうとコーランに失礼だろうが)ともいえる本。ビンラディンが傾倒したようである。歪んだ啓蒙を「聖戦」という名の暴力によって実行するという主旨の本。過激派のテロ行為は確かに恐ろしいが、どうしてそんなことをするような過激派になるのかというところで、こういう思想があるのだというところが興味深い。
ただ、この池上さんの本は人文・社会科学、もっと言えば宗教と経済にやや偏っているように思える。
自然科学の本は2冊あがっているが、このジャンルは現代に近づくほど「本」という単位ではなく「論文」という単位によりパラダイムシフトがもたらされるようになっているのではないか、という気がしないでもない。
ただ、論文による変革が専門家から一般の人々に伝わる場合には、本という媒体がまだまだ大きな影響力をもつはずである。
専門家の最新の動向を一般の人に分かる形で伝える。
その辺の話を突き詰めていくと、いわゆる「科学コミュニケーション」の話になるんでしょうね。