チョコ煮

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艦これ同人短編小説 『長門さん、キス島沖攻略す』

というわけで、思いついたネタで書いてみました。

 ラスボスは羅針盤

 

 

長門さん、キス島沖攻略す』

 

 


「不死鳥の秘密は、修理のタイミングにもあるんだよ」

 もう何度言ったか分からないこのセリフを、ヴェールヌイは再び口にした。
夜戦明けで疲れきった体を熱い浴槽に沈め、色白の肌はほんのり桜色。
鎮守府から見える水平線には朝陽の光がこぼれている。

『入渠ドック』と呼ばれる、大浴場を模した施設で僚艦たちが体を休めている。
大破、中破、中破、大破。それぞれ一様に疲労の色が濃い。

「せっかく司令官に改二にしてもらったのに……。一人前のレディとして恥ずかしいわ」と暁。長い黒髪を上でまとめてフッと息をつく。

 「次こそは私が水底に沈めてやるんだから!」と雷。栗色の髪を左右にぶんぶんと振り、息巻いている。

 「できればもうあの艦(ひと)とは戦いたくないのです」と電。雷より少しだけ長い栗色の髪がしょんぼりと水面に浮かんでいる。

 しかし、いつもは姦しい少女たちが、その後一様に押し黙っている。理由は負傷や疲労だけではない。
彼女たち第六駆逐隊の前に立ちふさがる難敵、『戦艦ル級』。連戦連敗、今日もまたドック送りにされてしまった。武勲を誇りとする『艦娘』にとって、これほどの屈辱はない。

北方海域・キス島沖。偵察部隊からの報告によれば、この海域には『駆逐艦』のみしか出撃できないよう、『羅針盤』で定められているという。

そう遠くない過去あるいは未来の話。『深海棲艦』と呼ばれる侵略者が現れ、人類は制海権を失った。深海棲艦に対抗できるのは、在りし日 の艦艇の魂を宿し、『艤装』と呼ばれる特殊な兵装を装備した、『艦娘』と呼ばれる少女たちのみ。だが、航路は『羅針盤』と呼ばれる運命決定装置のなすがままとなり、艦娘たちでさえ航海には著しい制限が加わっている。今回のキス島沖攻略作戦でも羅針盤は猛威をふるっていた。

長門秘書官殿。『ケ』号改、95回目の作戦報告が入っているのであります」

『ケ』号改。キス島沖攻略に与えられた作戦名である。


ここは提督の執務室、のはずだが、提督の姿は部屋に見当たらない。コンクリート打ちっぱなしの壁と床に、安価な家具屋から仕入れた木製の執務机がひとつ。殺風景な鉄枠の窓からは殺風景な鎮守府の軍港が見える。


ただ、不釣り合いなことに、子供の落書きのような絵画が1枚、見るからに高価な額縁に入れて大切に飾ってある。

 「続けてくれ。戦果はどうなった?」
「はい。善戦はしたようでありますが、またしても戦艦ル級を旗艦とする敵水上打撃部隊に甚大なる被害を受け、帰投を余儀なくされたとのことであります」
「轟沈艦は?」
「いないのであります。皆そろって帰投しているのであります」
「そうか……。それは幸いだな」

 腰丈の豊かな黒髪と、筋肉で引き締まった身体を併せ持つ美貌の武人。『長門秘書官殿』と呼ばれた艦娘はそう答えたものの、顔には苦渋の色が見て取れる。

戦艦・長門。ビッグ7として世界にその名を轟かせた威光も今の彼女には見る影もない。

 「あきつ丸、貴艦はこの状況をどう思う?」
「皆練度も高く、装備に不具合もないのであります。自分には何が原因なのか皆目見当がつかないのであります」

軍帽に男物の詰襟、黒地に金ボタンで統一された陸軍の服装。『あきつ丸』と呼ばれた艦娘は、連日の報告にやや疲労の影をにじませる。

「そうだな。私もなぜこうも被害が出るのか分からない」

しばし沈黙が流れたが、あきつ丸が口火を切る。

 「強いて言えば、駆逐艦だけで攻略しようとするところに問題があるように、自分には思えるのであります」
「とはいえ、あの戯けた運命決定装置の気まぐれのせいで、駆逐艦以外を加えると敵本体方面には進めないのだろう?」
「偵察部隊によれば、そういうことになるのであります」
「ふむ。だが、現状で彼女らは駆逐艦としてすでに最高クラスの練度に達している。この状況を打開するには、奇策も試してみる価値はあるかと思うが」

 ちなみに練度は、第六駆逐隊 暁改二Lv90、ヴェールヌイLv89、雷Lv88、電Lv89である。

 「奇策、でありますか」

あきつ丸は首をかしげる。

 「そうだ。彼女らでは夜戦に移行しても戦艦を落としきれないが、例えばこんな手はどうだろう」

 

 


鎮守府内にある火薬庫前。魚雷や爆雷、砲弾の類が山積みになっている。

「え~、駆逐艦と一緒なの~」

黒髪おさげにベージュのへそ出しセーラー服。重雷装艦・北上はいかにもダルそうに不平を口にした。

 「まあそう言うな。貴艦の雷撃は奴を一撃で葬り去るほどの威力だと聞く。ここはひとつ、この長門に力を貸してはくれないだろうか」
「まあ、いいけどさ~。ね~大井っち!」
「え゛?」

 長門は凍り付いた。

 「どうせ羅針盤でダメ元でしょ?だったら大井っちと一緒でも、大して変わんないんじゃない?」
「ま、まあそれはそうだが……。っておわっ!」

 長門が振り返ると、北上から誘いを受けた重雷装艦・大井が満面の笑みを浮かべながら鼻血を垂れ流して倒れていた。

 「ふっふっふ……、北上さんと北方クルーズ、ハネムーン……。誰も私たちの前を遮れないわ……。」

傍らの酸素魚雷を抱きしめて頬ずりしたり口づけしたり。おそらく北上と抱き合っている想像でもしているのだろう。長門の背筋に寒気が走る。

 「い、いいだろう。よろしく頼むぞ。」

濃密な百合の香りに圧倒されつつも、長門はそうねぎらってその場を去った。

 


結果:初手、北の方角に逸れ、そのまま帰投。

 


執務室。
「というわけでありますが。」
「分かった。次の手を考えようか。」
「はい。実は自分も策を練ってきたのであります!」

 

「れ、連合艦隊?」

 普段は冷静沈着な長門もさすがに驚きを隠せない。

 「はい!羅針盤が立ちふさがるなら、そんなものは破壊すればよいのであります!物量作戦なのであります!」
「それにいつぞやのイベントで自分を艦隊に加えるとルート固定が生じる、とWikiに書いてあったのであります!キス島沖でも試す価値は十分にあるのであります!」

 あきつ丸は熱弁する。

 


結果:連合艦隊では出撃できませんでした。

 


再びの執務室。
「まあ、そうなるな。」
「よい策だと思ったのでありますが……。」
「連合艦隊は不可。艦種縛りは強固なのか。」
「そのようであります。」
艦種縛りか、そんなものがなければ行けるのだがな。何とかかいくぐれないものか……。」

長門が長考に入ろうとしたその時、またしてもあきつ丸がひらめいた。

「自分、よい策を思いついたのであります!」

 


ここは空母艦載機の整備施設。整備員たちがせわしなく往来し、てきぱきと仕事を進めている。

「……で、なんでウチが行かなあかんねん。あそこは駆逐艦だけしか行けないんやろ?」

不満そうに軽空母龍驤は疑問を呈す。
あきつ丸は龍驤の胸部装甲を一瞥してこう言った。

龍驤殿は、その……『名誉駆逐』であります!羅針盤も欺けるのであります!」
「『名誉駆逐』ってなんやねん!どこ見て言うとんねん!なんで欺けるのか説明せいや!」

くそ真面目に語るあきつ丸。詰め寄る龍驤

 


結果:羅針盤の目は誤魔化せませんでした。

 


三度の執務室。
「まあ、そうなるな」

長門は苦笑いで報告に応じた。

 「よい策だと思ったのでありますが……」

 あきつ丸はがっくりと肩を落とした。

艦種縛りは誤魔化せない」
「そのようであります」
艦種艦種……そんなものがなければよいのだが」

 

しばし窓から軍港をぼうっと眺めつつ、長門はそう言った。キス島沖攻略作戦『ケ』号改も99回目の出撃を迎えようとしている。


温暖な鎮守府周辺も冬に入ろうとしている。
葉が落ち、樹皮が剥き出しで裸になった木々を見て、北方海域もこんな感じなのだろうか、いや、もっと寒々としているはずだ、と長門は物思いにふける。
だが、ふと映る窓ガラスの自分の姿にはっとして、長門はこう言い放った。

「そうか!艦種がなければいいんだ!」
艦種がない?自分にはどういう意味かさっぱり分からないのであります」

頭上に大きな『?』マークを浮かべ、あきつ丸は首をかしげた。

 


軍港。99回目の作戦召集を受け、第六駆逐隊の面々が集まる。白地に青のセーラー服にミニスカート。幼い外見とは裏腹に、その眼には雪辱を晴らすべく鋭い光が宿る。

 「よし! 艦隊、この長門に続け!」

 粉雪が舞う中、そこには全裸の筋肉女が一人、仁王立ちしていた。

「はわわ、長門秘書官、どうしたのなのです?」

電がパニックになっている。
あきつ丸、他の第六駆逐隊の面々も皆一様にポカンと口を開けている。

長門秘書官、一人前のレディとしてその恰好はいただけないなのです!」

暁もツッコミを入れるが、電に影響されて思わず語尾が変になっている。

「まあ、そう言うな。先ほど工廠で艤装を外してきた。これで『戦艦・長門』ではなく、ただの普通の女になったはずだ。」
「ハラショー! 発想の勝利だね。」

ヴェールヌイは本気で感心しているようだ。

「でも、艤装なしでは戦艦相手などとてもできないのであります。」
「フッ、ビッグ7の力、侮るなよ。敵戦艦との殴り合いなら任せておけ。」

だが全裸である。


「よし! 艦隊、この長門に続け!」

号令とともに、北方海域・キス島沖の拠点港から艦娘たちが出撃する。
北方海域の尋常ならざる寒気も、長門を押しとどめることはできない。

羅針盤長門を認識するなら北方面に逸れるはずだが……逸れない!

「ありがたい。これなら奴とも戦えるな!」

しかし、さすがにビッグ7、連合艦隊旗艦をも務めた(元戦艦)長門である。前座を務める敵水雷戦隊を紙くず同然に蹴散らし、いよいよ戦艦ル級率いる敵水上打撃部隊へ。

偵察隊帰還、敵陣形……単縦陣。戦艦1、重巡2、軽巡1、駆逐2
交戦形態……同航戦。

「望むところだ! 第一艦隊、単縦陣に展開、駆逐艦は駆逐・軽巡を狙え! 重巡・戦艦は私が相手を務めるぞ。」
「「砲雷撃戦用意!」」

号令とともに全員戦闘海域へ突撃する。

長門は一人、旗艦たる戦艦ル級を真っ先に狙う。
敵陣が目前に迫る。弾幕展開。戦艦の主砲が長門を襲うも、かすめる程度で何とか回避する。

 「さすがに艤装なしでは防御が手薄いな」

 呟きと裏腹に血がたぎる。
長門、敵弾幕内に突入。被弾する。小破。一直線に戦艦ル級に肉薄する。
戦艦ル級が長門を視認する……。あ、ちょっと笑いをこらえた。
だが、その隙に長門のリーチが戦艦ル級をとらえる。

 「うぉぉぉぉぉ!」

 咆哮とともに渾身のボディブローをねじ込む長門。全主副砲を長門に一斉射する戦艦ル級。
激しい爆発とともに戦艦ル級の体が宙を舞い、水底に沈んでいった。
だが、長門も無事ではなかった。戦艦ル級の一斉照射を被弾して中破。頭部から血がしたたり落ちて左目の視界を遮る。呼吸は荒く、体中に砲撃の傷が生々しい。
残るは重巡2隻。鬼神を目の当たりにしておののいたか、リーチ外から砲撃するも、長門は中破でこらえきった。
第六駆逐隊は……敵軽巡大破、敵駆逐2艦撃沈。こちらの被害は小破止まり。

 「ここらで潮時だな」

 互いの砲雷撃が尽きたところで、追撃せず。戦術的勝利を収めた。

第六駆逐隊共々満身創痍だが、続くボス艦隊が幸いにして弱く、全艦撃沈をものにしてキス島沖を無事攻略した。

中破で帰投した長門は入渠ドックの浴槽に浸かり、この武勲を噛みしめつつ、まどろみについた。

『連合艦隊旗艦を務めた栄光に比べれば微々たるものだが、貰っておこう……か』

この戦いの記事は全裸姿(入手経路詳細不明。モザイク有)の写真とともに号外として重巡・青葉の新聞に掲載された。
記事の見出しは『全裸の筋肉女、戦艦ル級をワンパン撃沈』
長門の武勇伝というよりは『全裸の筋肉女』の印象があまりにも強く残ったという。

購買所で号外を受け取り、記事を読んでさざめく艦娘たち。
そんな中での会話の一つ。

「へえー。でも、どうして第六駆逐隊では先へ進めなかったんだろうね」

何気なくその質問に答えるもう一人。

「……たぶん、人数が足りないから、じゃないでしょうか」

「「「あ」」」


その場にいた艦娘全員が思わず凍り付いたという。


おしまい

 

 

 

P.S.

ご高覧いただきありがとうございました。

タイトルですが、『ながとさん』と読むか『ながもんさん』と読むかは諸兄のご判断にお任せいたします。

ではでは。

 

2015/9/16 改版公開